気温とぶどうの生育の関連調査
有効積算温度とぶどうの生育状態の関連性の調査
世界では、ぶどう栽培に必要な積算温度がある程度定義されています。最も有名だとされているのは、「Amerine and Winkler(1944)に基づき 4~10月の有効積算気温(∑(平均気温-10℃>0℃))に基づきブドウ栽培の地帯区分。」です。
この前提が世界中で広く使用されているため、”品種毎に、生育のステージが有効積算温度に依存している”と仮定し、それが事実であるかどうか調査を行う事にしました。
この仮定が正しければ、ぶどうの開花、結実の時期の予測、作業スケジュールの改善に役立てられると考えています。
しかし、調査方法として第一に問題になったのは“測定する期間”です。Amerine and Winklerの場合、4月から10月になっていますが、北海道岩見沢市の場合は4月は雪の時期であり、11月まで収穫が伸びる可能性もあります。
そのため、2011-2014年の調査では、“レンベルガーの萌芽観測”を始点とし、“収穫の最終日”を終点として設定、生育の観察を行い、有効積算温度との関連性を調査することにしました。
調査は、自社農園に設置している自動気象観測装置を使用しています。
結果は下の表のようになりました。
有効積算温度と生育ステージ
生育ステージ
2011年
2012年
2013年
2014年
レンベルガーの萌芽
0
0
0
0
1割未満開花
236.6
230.0
5割開花
287.6
283.0
282.1
満開(結実混在)
324.7
334.5
結実完了
380.4
392.1
着色初期(レゲント)
793.4
835.1
751.7
742.2
着色初期(レンベルガー)
939.7
983.1
884.2
885.0
収穫(最後の品種)
1118.0
1257.3
1185.3
1172.0
現在の自社農園の品種は成熟期間が近いことから混在状態で観察を実施。
まだブランクが多く不確定な部分が多いですが、この結果により、着初期初期に関しては生育期間の長さから気温以外の要因による幅が大きくなり使用することができませんが、開花、結実に関してはおおよその予測ができる可能性が高いことがわかりました。
2015年は”始点を雪どけの日”に設定し、”品種毎”の観察を実施しました。
有効積算温度と生育ステージ
生育ステージ
ケルナー
シャルドネ
ピノ・ノワール
レンベルガー
バッカス
トラミーナ
レゲント
雪どけ
0
0
0
0
0
0
0
萌芽
40.3
34.0
39.9
28.5
34.0
40.3
37.9
1割未満開花
286.6
246.2
267.1
286.6
286.6
317.4
246.2
満開(結実混在)
-
336.9
336.9
-
-
-
336.9
着色初期
-
-
821.7
863.4
-
-
738.3
収穫
1110.6
1113.7
1113.1
1113.1
1072.0
1110.6
1091.3
”見逃し”によるデータの欠落がまだ数点あり、信頼性を高めるためにもより入念な観察が2016年の課題です。
経過
2007年 気象観測装置設置
観測データを収集しながら観察データを記録
2010年 観測データを有効積算温度にあてはめ、全園の平均的な(と思える)観察データとすり合わせを行い始める。
2011年 観測データと観察データより、開花期の予測をスタートさせる。
2012年 観測データと観察データを作業スケジュール、防除に関連付けることを開始。
2015年 観測データの始点を”雪どけ”に設定し、有効積算温度と”品種毎”の生育ステージの観察データの収集を開始。
2016年 未定(2015年と同様の調査を予定)
現在で得られた効果例
作業開始の日取り調整の負担減
芽欠きを開始した日付を記録し、有効積算温度の平均値を算出。同時に芽欠きに必要な”総作業時間”の平均値として算出し、おおよその作業期間を設定。気温上昇の推移を見ながら芽欠き開始の有効積算温度数値にいつ達するかを算出、日付を設定する。そこを始点に作業期間をあてはめ、作業に余裕があるかどうかを判断。遅れそうな場合は数日前倒すか、それ以外の方策を検討する。
これらの検討は、芽欠き開始前に終了できる。
重要防除の日付設定
1割未満開花のタイミングで防除を行う。現在品種毎に防除を行う事が難しいため、一番早い品種に合わせて行っている。防除1週間前から気温の推移を予測計算し、1割未満開花に達する見込みの日の前後の天気予報から防除日を設定。前倒しにするかどうかの判断がスムーズに行えること、気象の変動があっても開花期を逃す心配が少ないことが利点である。(開花期の有効積算温度は冷夏の年を含めても、毎年近い数値をマークしていたため、今のところ信頼性はあると考えている。)
雪国に適した仕立ての検証
2016.5.5更新
雪国に適した仕立ての検証
現在北海道のぶどう栽培で広く使用されているのは、”片側水平コルドン”という仕立てです。
この仕立ては雪が多い北海道でぶどう栽培を可能にしています。
雪が多いなら、雪の上に仕立てれば良いのでは?と思うかもしれませんが、そうもいきません。
岩見沢市の冬期間の最低気温は氷点下20℃以下。この温度でぶどうの樹が露出していると、”凍傷”を受けてしまいます。そのため、雪の中で越冬させることが条件になります。片側水平コルドンでは、降雪前に剪定を終わらせて針金から外し、雪の中に”へ”の字にして寝かせます。こうすることにより、ぶどうの樹が雪の中で”しなり”、越冬させることができるのです。
私たち宝水ワイナリーもこの仕立てを採用し、この方法でぶどう栽培を行っています。そして、10年以上経過して気付いたのは、”樹が太くなるほどにしなり辛くなり、折れやすくなるのではないか”という事でした。これは詳細な検証を行ったわけではありませんが、実際に太くなった樹の方が若木よりも折れやすくなっているように感じています。樹齢が高くなっていくほどに、折れるリスクが高まるというこの課題を解決させる必要があると感じました。
他にも課題と思うことはあるのですが、それは下に箇条書きで記載します。
・ 降雪前に剪定を完了させなければならないため、剪定作業に多くの労力がかかる
・ 春先、ぶどうの樹を針金に括り付けなければならない為、春剪定を行う事が難しい
そのため、私たちは雪がとくに多いこの地域で、片側水平コルドンよりも雪で折れにくい方法を考えることにしました。
考えた末、現在試験しているのは下の図のようなものです。
長梢を活かした仕立てとなっています。しかし、短梢を多く残しておけば、ゴブレの仕立ても可能であると考えています。
ゴブレの場合、春先にぶどうの樹を針金に固定させる作業がなくなる為、春剪定を行う事ができるようになると考えています。
次に、越冬の時の状態です。
この仕立てがうまくいけば、上に記載していることのほとんどが解決できると考えています。
現在は、この仕立てで本当に越冬ができるのか、枝の損傷はないかどうかなどをテストしている段階です。試験の数量はまだ非常に少なく、品種は”シャルドネ”と”ピノ・ノワール”の2種類のみ。両方とも、私たちの畑では枝が曲がりやすく、柔軟性があると感じている品種です。植栽は2012年とまだ若く、まだまだこれからデータを集めていかなければなりません。
シャルドネとピノ・ノワールがうまくいったら、今後は試験品種を増やしていきたいと考えています。
経過
2012年 試験株を植栽。品種はピノ・ノワール2本、シャルドネ2本植栽。生育させ、越冬前に切り戻し剪定。
2013年 生育させ、越冬準備のみ行う。
2014年 雪どけ後6芽剪定。ピノとシャルドネ1本づつがネズミにかじられ、生育不良となる。
被害のない株はそのまま生育。秋に越冬準備をする。
2015年 雪どけ後剪定。剪定はゴブレと8芽の長梢を1本づつ。
2016年 雪どけ後剪定。剪定はゴブレ3本とギュイヨ・ドゥーブル1本
写真
ギュイヨ仕立て試験
2015年雪どけ後
2015年越冬前剪定後
2016年5月上旬(株は別のものに変更)
ゴブレ仕立て試験
2015年雪どけ後
2015年越冬前剪定後
2016年5月上旬
考察
2015.11.22
仕立て試験を行い、複数の課題が明確になった。
ギュイヨ形式は”針金の内側に枝を置かなければならない”。これは、針金の外側の場合、越冬前剪定後の”枝縛り”のあと、針金と枝が絡まってしまうためである。越冬前で縛る分だけ内側に入れればよい(切除する部位は邪魔にならない為外側でも良い)ため、大きな障害にはならないと想定するが、手間を省くということが本研究の目的でもある為今後簡略化する方法を検討する。
ゴブレ仕立てについては、1本の樹に1本の杭を打てば棒仕立てが可能となり、トレリスをなくすことができる。斜面の畑では等高線上に人が移動できるため、負担が減ると想定する。一方、樹1本当たりの導入コストが高くなる。
コストと収穫量のバランスを取ることが可能かどうかも含めて、試験を継続する。
2016.5.5
春剪定後、ギュイヨ仕立て1本と株仕立て3本となった。
株仕立て3本は、2016で基本形ができる見込み。
ギュイヨ仕立ては2015年の考察の通りに作業が簡易化できない問題があるが、1本は継続する事にした。他は全て作業効率も良いゴブレにする事にした。
越冬にあたり、枝の損傷はなし。
塩化ビニル管で強度は今のところ十分だが、土ごと倒れてきている場所もあった。打ち込みは30cmは必要と考えられる。